僕が担当しているプロジェクトが現地の先生たちから「お金のムダ」と言われてしまう3つの理由

こんにちは。ジャマイカのフルタ(@Furuta_Jamaica)です。

以下は、2017年6月10日に書いた記事になります。

 

僕は活動の一つとして“CalculationTime”という計算ドリルを配布するプロジェクトを担当しています。

 

5年前に首都のシニア隊員によって始められたこのプロジェクトですが、現在はジャマイカ全土で65校の学校で行われていて、僕はそのうちの任地の5校の担当です。

 

任地に来てまず衝撃を受けたのは、多くの先生がこの配布されたドリルを棚にしまったままで実施すらしていない状況。

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そしてついに一部の先生たちには「お金のムダ」とまで言われてしまいました。

 

なぜそのようなプロジェクトが5年も続いてきているのかというところにも興味深いポイントがあるんですが、それはまた別の機会に書くとして、今回はこの計算ドリルプロジェクトがどうして現地の先生たちにあまり受け入れられていなくて正しく実施されていないのか、という点に焦点を当てて考えようと思います。

 

これは多分教育関係以外の隊員の方にも共通するところがあるんじゃないかと思っているので、他の隊員の方にも読んでもらえたら嬉しいです。

少しずつ見えてきた3つの理由

 僕は5校を担当しているので赴任当初は一日一校のようにぐるぐる回りながら活動していました。

その時はみんな頑張ってるなぁと思いながら見ていましたが、その後活動の方針を一校ベタ張りに変えてから、先生が実は全然やっていないことが分かりました。

 

巡回指導中は信頼関係があまり密接ではなく本音を引き出せてなかったのですが、先生と深い話をできるようになってからはプロジェクトに対して不満爆発。笑

 

そういう先生たちのリアルな気持ちを聞いたり、ドリル以外の算数の授業に密着する中で、CalulationTimeがうまくいかない3つの理由が見えてきました。

一つずつ考えていきます。

 

①”本当の”ニーズにマッチしていない

一番の理由はこの①です。

このドリルプロジェクトは当初「計算ができないのは計算練習が足らないからだ」とい

う考えから作られたそうです。

 

確かに計算ができない人に計算ドリルはニーズとしてあるはず。

ただ僕は、この考え方自体がまず本質を捉えていないと思っています。

 

例えば引き算の指導。ジャマイカの学校ではこんな指導がされます。

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数直線を用いて数えて求める方法。

この計算ではいわゆる順序数を使って答えを求めています。まだ一桁だからいいですが、これが38-29のように二桁になってもこのやり方を使って教えてしまう先生が少なくありません。

 

他にもよくあるのが、〇を書いて計算する方法。

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38-29なら38個丸を書いて29回消すわけです。そして残りの9個を数える。

日本人には信じられないけどね。

 

こんな指導を多くの先生がしている状況でドリルを配ったらどうなるかというと、結局このやり方で計算を練習するだけなんです。

順序数の数え方が早くなったり、丸を書いたり消したりするのが速くなるだけ。

 

計算力が低い現状に対して、「計算ドリルを配る」ことが“本当のニーズ”に合っている支援なのでしょうか。

僕は計算ドリルを配る前に、「どう指導するべきか」ということへのサポートが本当のニーズなんじゃないかと思います。

 

今のところこのプロジェクトはドリルを配って、はいやってねというだけのプロジェクトになってしまっているのが現状です。

 

しかも、ドリル自体も算数科的に見て質が低い。ただ計算問題を書き並べただけで、色んな型の計算がごっちゃになっていたり数字の選び方が適切じゃなかったりする。

本当のニーズにマッチしていない上にドリルの質も低いので、子どもたちがあまり伸びない⇒もうやらなくていいやになっていきます。

 

ただ難しいのは、現地の人も自分たちのニーズを理解していないことがあるということ。現地の人が「これをやってほしい」ということが必ず的を射ているかは確かではないので、支援する側は高い専門性と見抜く力をもっていないといけないなと思いました。

 

②現地人側の”自分事”になっていない

①ではプロジェクト自体がニーズに合ってなくてドリルの質も低いと書きました。

日本であれば不満が爆発しそうではありますが、ジャマイカでのこのプロジェクトではそんなことは起こりません。

 

その一つの理由は、この活動自体が彼らにとって”自分事”ではないからだと考えています。

 

この計算ドリルプロジェクトですが、ほとんどの経費をJICAが負担しています。

 

現地の教育省や学校はほとんどお金を出していません。そうなるとどういうことが起こるかというと、「まあタダだし、もらっとくか」とか「ケチ付けて外されると嫌だから、黙っとくか」という考えがでてきます。

このドリルのコンセプトや質自体に問題があることは先生たちはみんな分かっているのに、声をあげないんです。

 

タダだし、最悪使わなくても損はしないから

 

この感覚がある限り、ドリルが良くなっていくことはないだろうな。

 

もし、このドリルの経費の半分をジャマイカが持っていたら、もっと彼らはガツガツ「ここを変えてくれ」というように意見してくると思います。

金を払っている分、元を取らなきゃいけないから。

 

そういうことをいうと、途上国からお金を取るのは酷だとか現実的に無理だとか言う人がいるけど、彼らが自分で回していくことのできないプロジェクトを進めていることの方がおかしい。

学校数を絞ったり学年を絞ればそんなことは調節できることだし。

 

まあどんな方法だったとしても、結局現地の人が「自分たちが主役」だと感じられるような仕組みや空気感が無きゃいけないと思うんです。

与えられたドリルをただこなしているという関係をどうにか変えられたらいいなあ。

 

③評価基準が明確でない

協力隊員の活動でよく良い面として語られるのは「結果を残さなくていい」ということ。企業ではありませんから、数字にガツガツしてなくてやりたいことをやれる。

 

でもこれって、最終的に結果が出なくてもいい、というだけであって「結果を評価して次の行動に活かす」というのは絶対必要な作業ですよね。

 

「一人でも何かを感じてくれたら」とか「未来への種をまけばそれでいい」とか言うのって、そうかもしれないけどそれは自然とついてくることであって、それを最初から国際協力の活動の目標にするはちょっと違うし、しっかりと「数値」で活動の質を評価することは必要不可欠。

 

 このCalculationTimeにも一応こんな感じの事前・事後テストがあります。

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もちろんドリル自体が正しく行われていない学校では、事前・事後テストだけやって終わりにしちゃう先生もいますが。悲しい。。。

 

この事前・事後テストなんですが、ドリルをやっている対象校以外には実施されません。

 

つまり、ドリルをやっていない学校とやっている学校で伸び率がどのくらい変わったかということが評価されていないんです。

5か月近く経過しているんだから、そりゃあ対象校もそうじゃない学校も学力は伸びているのは当たり前で、これじゃあ「ドリルによる」伸びを比較できません。

 

これってすごくもったいなくて、

もし対象校とそれ以外を比較して点数が伸びていれば、現地の先生にも有効性がもっとシンプルに伝わって「やりたい」という気持ちになってもらえる。

つまりもっと活動に”自分事”として取り組んでもらえる。

 

もし対象校とそれ以外の点数が変わっていなかったら、ドリルの質を見直したり方向性や実施方法も変えていかなきゃいけなくなる。

 

今はその評価基準が明確でないので、なあなあのままプロジェクトが進んできてしまってるんだろうな。

だから①で書いたような質の低いドリルが何年も変わらずに続いてきてしまっている。

 

やっぱり、活動を改善していくうえで明確な評価基準は必要不可欠だよなと思いました。当たり前だけど

 

上からの評価とのギャップ

ジャマイカに赴任してすぐのころ、大使館の方やジャマイカお偉いさんたちにCalculationTime担当だということを話すと、「それはすごい!」とか「良いプロジェクトの担当になったね!」というようなことを言われました。

 

確かに広報活動はすごくうまく行われてきていて、テーマソングを作ったりFacebookで発信したりなど知ってもらう点においてはすごい。

 

そういうのを見て実情を知らない人の評価は上がっていくんだけど、本当の現実を知っている人や現場の先生は全部わかっている。

そんなんじゃない。

 

周りからの評価と実情が違う、なんてのは国際協力以外でも色々あることなんだろうけどやっぱもどかしいな。

なにがって、お偉いさんだけなんか喜んでいて一番活躍していなきゃいけない現場の先生の思いや意見がプロジェクトに全然乗っていかないことがもどかしい。

 

 

先人たちの努力

とか偉そうに、生意気に意見してきましたが、僕がこうやっていえるのは今までこのプロジェクトを作ってきたシニアの方たちの努力があってこそです。

0から1を作ることがどれだけ大変だったか。

 

特にジャマイカは保守的で物事を変えたくない傾向が強い国と言われています。

その国でジャマイカ全土に広がる大きなプロジェクトが動き出したことでもすごい。

それが5年も動き続けたのはもっとすごい。

 

そういう思いをしっかりと引き継いで、このプロジェクトをよりよくして行けたらいいな。

 

まとめ

色んな人の思いが連なって続いてきたCalculationTime。

ただ、よくよく見ていくとまだ問題が山積みだし、そもそものコンセプト自体を変えなきゃいけないのかもしれない。

 

あとは、やっぱり大きいプロジェクトであればあるほど、周りとの現状の理解の違いが大きくなったり、変えていくことが難しくなったりするな~と思いました。

うん、本当に難しい。僕の意見にはまだまだ存在感がありません。努力が足りないな、ガンバロ

 

 

でもやっぱり僕は、現場の先生が本当に必要としていることを常に考えていたいなと思います。

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